交通事故でケガをして治療を続けたけれど、残念ながら完全には治らず、痛みやしびれなどの症状が残ってしまうことがあります。このような場合、「後遺障害」として等級認定を受けることで、後遺障害慰謝料や逸失利益といった追加の損害賠償を請求できるようになります。
しかし、後遺障害の認定手続きは複雑で、申請すれば必ず認定されるというものではありません。申請の方法や提出書類の内容によって、認定結果が大きく変わることもあります。この記事では、後遺障害とは何か、14段階の等級の概要、認定手続きの流れ、認定されるためのポイント、そして非該当となった場合の異議申立てについて、わかりやすく解説します。
後遺障害とは何か
後遺障害とは、交通事故によるケガについて適切な治療を行ったにもかかわらず、これ以上治療を続けても症状の改善が見込めない状態(「症状固定」といいます)になった時点で残存している症状のうち、自賠責保険の認定基準に該当するものを指します。
日常会話で使われる「後遺症」と「後遺障害」は似ていますが、法的には異なる概念です。後遺症は医学的に症状が残っている状態を広く指しますが、後遺障害は自賠責保険の認定基準を満たし、正式に等級が認定されたものだけを指します。つまり、症状が残っていても、認定基準に該当しなければ「後遺障害」としては扱われず、後遺障害慰謝料や逸失利益は請求できないことになります。
後遺障害が認定されるためには、一般的に以下の4つの要件を満たす必要があります。第1に、交通事故との因果関係が認められること。第2に、適切な治療を受けたにもかかわらず症状が残存していること。第3に、症状が医学的に証明または説明できること。第4に、自賠法施行令に定められた後遺障害等級に該当すること。これらの要件をすべて満たして初めて、後遺障害として認定されます。
症状固定の時期は、主治医が医学的な判断に基づいて決定します。一般的に、むちうちの場合は事故から6ヶ月程度、骨折の場合は手術の有無や部位によりますが6ヶ月〜1年程度が目安とされます。ただし、保険会社から「そろそろ症状固定ではないですか」と治療の打ち切りを打診されることがありますが、症状固定の判断はあくまで主治医が行うものです。保険会社の言いなりにならないようにしましょう。
後遺障害等級の概要 ― 1級から14級まで
後遺障害等級は、障害の重さに応じて1級から14級までの14段階に分かれています。1級が最も重く、14級が最も軽い等級です。各等級には細かな認定基準が定められており、自動車損害賠償保障法施行令の別表に規定されています。
等級は大きく分けて「別表第一」と「別表第二」に分類されます。別表第一は、介護を要する後遺障害(1級・2級)に適用され、別表第二はそれ以外の後遺障害(1級〜14級)に適用されます。交通事故で最も認定数が多いのは14級9号(局部に神経症状を残すもの)と12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)で、むちうちなどの神経症状に関連する等級です。
以下の表は、主な等級と裁判基準(弁護士基準)での後遺障害慰謝料の目安です。自賠責基準と裁判基準では金額に大きな差があることがわかります。
| 等級 | 障害の例 | 自賠責基準の慰謝料 | 裁判基準の慰謝料 |
|---|---|---|---|
| 1級(別表第二) | 両眼失明、両上肢のひじ関節以上の喪失 | 1,150万円 | 2,800万円 |
| 3級 | 一眼失明+他眼の著しい視力低下、咀嚼機能の喪失 | 861万円 | 1,990万円 |
| 5級 | 一眼失明、一上肢の手関節以上の喪失 | 618万円 | 1,400万円 |
| 7級 | 一眼失明(他眼の視力0.6以下)、一耳の聴力喪失 | 419万円 | 1,000万円 |
| 9級 | 一眼の視力0.06以下、一足の指の全部喪失 | 249万円 | 690万円 |
| 10級 | 一足の指の機能障害、醜状障害 | 190万円 | 550万円 |
| 11級 | 脊柱の変形障害 | 136万円 | 420万円 |
| 12級 | 局部に頑固な神経症状、骨変形 | 94万円 | 290万円 |
| 13級 | 一眼の視力0.6以下、一手の小指の喪失 | 57万円 | 180万円 |
| 14級 | 局部に神経症状を残すもの(むちうち等) | 32万円 | 110万円 |
後遺障害認定の流れ ― 事前認定と被害者請求
後遺障害の等級認定は、損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所が行います。申請方法には「事前認定」と「被害者請求」の2つの方法があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。
事前認定(加害者請求の一環)
事前認定とは、加害者側の任意保険会社が窓口となって手続きを行う方法です。被害者は主治医に後遺障害診断書を作成してもらい、それを加害者側の保険会社に提出するだけで済みます。保険会社がその他の必要書類を揃えて、自賠責損害調査事務所に提出してくれます。
事前認定のメリットは、手続きの手間が少ないことです。書類集めは保険会社が行ってくれるため、被害者の負担は軽くなります。一方、デメリットとしては、保険会社がどのような書類を提出しているか被害者が把握できないこと、被害者に有利な追加資料を添付してもらえない可能性があることが挙げられます。保険会社には支払額を抑えたいという立場がありますから、被害者に有利な資料を積極的に集めてくれるとは限りません。
被害者請求(自賠法16条請求)
被害者請求とは、被害者自身が直接、加害者側の自賠責保険会社に対して後遺障害等級認定の申請を行う方法です。自動車損害賠償保障法第16条に基づく手続きであるため、「16条請求」とも呼ばれます。
被害者請求のメリットは、提出書類の内容を被害者自身がコントロールできることです。後遺障害診断書の記載内容を事前に確認し、必要に応じてMRI画像のCD-ROM、医師の意見書、日常生活状況報告書などの追加資料を添付することができます。また、等級が認定されれば、示談成立前に自賠責保険金(後遺障害慰謝料や逸失利益の一部)が先行して支払われるというメリットもあります。
デメリットは、書類を自分で揃える手間がかかることです。必要書類としては、後遺障害診断書、交通事故証明書、事故発生状況報告書、診断書・診療報酬明細書、画像資料(レントゲン・MRI等)などがあります。弁護士に依頼すれば、これらの書類の収集から提出まで代行してもらうことができます。
認定されやすくするためのポイント
後遺障害等級の認定は書面審査が基本であり、提出された書類の内容がすべてといっても過言ではありません。以下のポイントを押さえることで、適正な等級認定を受けられる可能性が高まります。
1. 適切な通院を継続する
後遺障害の認定において、通院の頻度と期間は非常に重要です。特にむちうちで14級の認定を受けるためには、事故から症状固定まで6ヶ月以上の通院期間があることがほぼ必須条件とされています。通院頻度が極端に少なかったり、通院を途中で中断したりすると、「症状が軽い」「治療の必要性が低い」と判断される可能性があります。
整骨院だけでなく、整形外科にも定期的に通院し、医師による診察と症状の記録をカルテに残してもらうことが重要です。整骨院の施術は治療として有効ですが、後遺障害の認定審査では医師の診断が重視されます。
2. 症状を一貫して訴える
後遺障害の認定では、事故直後から症状固定まで一貫した症状の訴えがあるかどうかが重要な判断要素になります。カルテに「痛みがなくなった」「症状が改善した」と記載された後に再び痛みを訴えた場合、症状の一貫性がないとして不利に扱われることがあります。
通院時には、その時点の症状を正直に、かつ具体的に医師に伝えてください。「首が痛い」だけでなく、「首の右側から肩にかけて痛みがあり、特に上を向くと痛みが強くなる」「右手の指先にしびれがある」など、具体的に伝えることが大切です。
3. 必要な検査を受ける
MRIやCTなどの画像検査で客観的な所見(ヘルニア、骨の変形など)が確認できれば、後遺障害の認定において非常に有利です。12級13号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」は、画像所見など他覚的所見によって神経症状が医学的に証明できる場合に認定されます。一方、14級9号は画像所見がなくても、治療経過や症状の一貫性などから「医学的に説明できる」レベルであれば認定される可能性があります。
必要な検査は症状によって異なりますが、むちうちの場合はMRI検査、神経学的検査(ジャクソンテスト、スパーリングテストなど)、反射テストなどが重要です。主治医に検査の実施を相談してみてください。
4. 後遺障害診断書の記載内容を確認する
後遺障害診断書は、認定審査の最も重要な資料です。記載内容が不十分だったり、不正確だったりすると、本来認定されるべき等級が認定されないことがあります。後遺障害診断書は主治医に作成してもらいますが、医師は治療の専門家であって、後遺障害認定の専門家ではありません。そのため、認定に必要な情報が十分に記載されていないことがあります。
弁護士に依頼すれば、後遺障害診断書の記載内容を事前にチェックし、不足している情報があれば医師に追記や修正を依頼してもらうことができます。これは認定結果に大きく影響するポイントです。
非該当の場合の異議申立て
後遺障害等級認定の申請をしたものの、「非該当」(後遺障害に該当しない)と判定されたり、認定された等級が自分の症状に比べて低すぎると感じたりした場合は、「異議申立て」を行うことができます。異議申立てには回数制限がなく、何度でも行うことができます。
異議申立ての方法
異議申立ては、自賠責保険会社に対して「異議申立書」を提出することで行います。ただし、最初の申請と同じ書類を提出しただけでは結果が覆ることはほとんどありません。異議申立てを成功させるためには、最初の申請で不足していた医学的資料を追加で提出する必要があります。
具体的には、新たなMRI画像、主治医の医学意見書(症状の原因や因果関係について詳細に説明したもの)、他の専門医のセカンドオピニオン、神経学的検査の追加結果などが有力な追加資料となります。異議申立ての成功率は高くはありませんが、適切な追加資料を提出することで結果が覆るケースもあります。
自賠責保険・共済紛争処理機構への申立て
異議申立てが認められなかった場合は、「自賠責保険・共済紛争処理機構」に紛争処理の申立てを行うことも可能です。紛争処理機構は、弁護士、医師、学識経験者で構成される紛争処理委員会が審査を行い、調停を行う機関です。ただし、紛争処理機構への申立ては原則として1回限りです。
裁判での争い
自賠責保険の認定手続きでは適正な等級が得られなかった場合、最終的には裁判で後遺障害等級を争うことができます。裁判では、自賠責保険の認定結果に拘束されず、裁判官が証拠に基づいて独自に後遺障害の有無と等級を判断します。自賠責で非該当とされた案件が、裁判で14級や12級と認定されるケースもあります。
まとめ ― 適正な後遺障害等級認定を受けるために
後遺障害等級の認定は、損害賠償金の額を大きく左右する非常に重要な手続きです。14級と非該当では、後遺障害慰謝料だけで裁判基準で110万円、逸失利益を含めるとさらに大きな差が生まれます。12級と14級でも、慰謝料だけで180万円の差があります。
適正な等級認定を受けるためには、適切な通院の継続、一貫した症状の訴え、必要な検査の受診、そして後遺障害診断書の記載内容の確認が重要です。可能であれば被害者請求の方法で申請し、提出書類の内容を自分でコントロールすることをおすすめします。
後遺障害の等級認定は専門的な手続きであり、弁護士のサポートが大きな力になります。弁護士費用特約がある場合は自己負担なしで弁護士に依頼できますので、症状固定が近づいたら早めに弁護士に相談してください。適正な後遺障害等級の認定は、被害者が正当な補償を受けるための第一歩です。